この記事では、アメリカの大学への留学、進学を考える皆さんにとって、もっと言えばこれからの時代を生きる学生の皆さんに、AI(Artificial Intelligence = 人工知能)がどのような影響を与えるか、どう考えるべきか?というテーマでブログ的に論じていきたいと思います。

アメリカの大学でAIを学ぶというトピックについては、『AIについて考える:第2回』を参照してください。

50年前の「予言」

この記事のタイトルでもある『〇〇は〇〇の夢を見るか?』という言い回しを、どこか別のところでも見かけたことがある人も多いでしょう。元ネタは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(原題 "Do Androids Dream of Electric Sheep?")』というフィリップ・K・ディックの古典SF小説です。『ブレードランナー』というカルト的な人気を誇る1980年代のハリウッド映画の原作でもあります。(記事のタイトルはこの言い回しを使ってみたかっただけですが。。)

あらすじはこちら(wikipedia) をご覧いただくとして、ストーリーは、主人公が次第に人間とAIベースの人造人間の区別がつかなくなって混乱していく姿を通じ、人間とは何か?を問うというストーリーです。

By http://www.betweenthecovers.com/btc/reference_library/title/1014273, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=21070569
Do Androids Dream of Electric Sheep?

驚くべきことに、この小説の刊行は1968年と50年以上前の作品であるということです。幸い、現実では物語のように核戦争や第三次世界大戦は起きていないものの、「AIと人間」というテーマは今まさに人類が直面している問題と言え、「AIチャットに恋をする人も現れている」というニュースが流れる昨今、ついに現実がSFの世界に追いついてしまった感があります。

AIが当たり前の世界になる

AIに関しては様々な議論がある一方、生活や仕事の現場に確実に、そして議論が追いつかないうちに普及してきており、これから学ぶ皆さんには避けて通れない要素になるのは間違いないでしょう。例えば学生の皆さんにとってスマートフォンが無い世界は考えられないでしょうが、おじさんである筆者にとっては、大学時代が携帯がやっと普及し始めた時代でした。同じように、皆さんの10~20年後には自分のお子さんに「お父さんお母さんの学生時代はAIが出立ての頃でね」「えー、考えられなーい」といった話をするようになることでしょう。

AIとどう付き合うか?

時代の流れとしてAIを避けては通れない以上、学ぶ上で考えることは以下のような点だと思われます。

AIのある世界で学ぶにあたって持ちたい視点

  1.  道具としてどう使いこなすか
  2.  自分が世界のどの部分で役に立てるのか

それぞれ考えていきましょう。

1. 道具としてどう使いこなすか

言うまでもなく、道具としてのAIはとても便利で、筆者自身も徐々に仕事で活用し始めています。
ツールとしての利便性は今後もどんどん上がるでしょう。

レポートに使うのはNG?

ただし、頼りきりになってしまってはいけませんし、大学でも生成AIのレポートへの使用などの規定を定めようという動きが出てきています。ただ、大学としても今後の時代を考え、単に禁止するよりは「学生の学びを阻害せずに、いかに共存するか」というラインを探っているようで、他人のレポートを真似する、あるいはネットから丸コピーする「チーティング(=ずる)」との線引きはどこかの議論を重ねているようです。
現在でもネットなどから論文を丸コピーする行為については、それこそAIによるチェックツールが存在しますから、「この文章はAIが書いた文章」というのを判別するためのAIが登場するのはそう遠いことではないでしょう。(ちなみにチーティングはアメリカの大学では一発で退学になる危険もあるくらい、やってはならない行為とされていますのでご注意を!)

ことレポートや論文においては、書籍の引用と同じように、AIを使った部分を明記する、どういう目的でどんなツールを使ったのかを明記する、などの使用ルールができ、それをきちんと書かないと無断引用と同じように罰せられる、というラインが現実的ではないかと考えられます。

一方AIは万能ではなく、AIが間違った知識を要約している場合もあるため、AIの吐き出した答えが本当なのかを検証できる調査、考察の能力も必要になります。そう考えると、結局は調べるべき事実は自分で調べなければならず、留学生にとってはきれいな英語の文章を労せず書いてくれるというのが大きなメリット、というくらいでしょう。それはそれでとても大きいのでどうやっても時間が足りない時には使えますが、英語の勉強にはならないので自分で書くのが一番なのは言うまでもありません。

使いこなすための「能力」

学生の皆さんが考えた方が良いことは、ニュースなどをチェックして、こうした技術の進歩そのものの知識を得ること、そしてそれについていき、使いこなすために必要な知識やスキル(技術)は何かを考えて探っていくことでしょう。

加えて、最も大事なのはこれらの「道具」をどこで使っていくのが正解なのか、「ここで使えばもっと便利」「ここはAIを使うのは適切でない」という使い所を見極める「目」を養うことです。言い換えれば発想力、ひらめきといった部分で、そのためには目の前の課題をこなすための流れや手順を頭に思い浮かべたり整理して、最適解を設計し、着実にこなしていく、いわゆる問題解決力も鍛えていきましょう。

それは大それたものではなく、学校の宿題でも、家事のお手伝いでも学ぶことができます。いかに効率よく、かつ良い結果が出せるかを「考えながら」進める習慣をつけることが大切です。

2. 自分が世界のどの部分で役に立てるのか

2015年に「AIで日本の49%の仕事が無くなる」という衝撃的なレポートが野村総研とオックスフォード大学の共同研究成果として発表されました。もちろんこの通りではない部分もあるものの、かつて工場において製品の生産を人間の手ですべて行っていた時代から、機械による生産、そして産業用ロボットによる生産に移行していったように、今までは考えられなかったいろいろな仕事をデジタルツール上やネット上のロボットが人間の代わりに対応していく産業革命が起こることは容易に想像できます。

勉強が無駄になる?

一番怖いのは、せっかく時間と費用をかけて学んだのに、皆さんが学んだ結果が時代の変化で無に帰すことです。それもひとつの最悪の可能性としては考えなくてはならないでしょう。

ただ、大原則としてはツールとは人が取り組む問題において結果を出すために使われるものです。人の預かり知らぬところで目的も無しにAIが勝手に動いているという事態は、現実にはハードウェアも電気代も必要な以上、それこそSFのようなAIの反乱でも起きなければ、まず起こり得ません(AIが人間を超えるというシンギュラリティ云々の話は話が大きくなりすぎるのでここでは触れないでおきましょう)。

では、無駄にならないための答えは単純で、AIに仕事を奪われる側ではなく、AIを使う側に立てばよい、それに値する自分になればよいのです。実際、例えば法曹界では、刑事裁判などで過去の判例を抽出するための作業(リーガルサーチ)にAIが利用され始めており、商用サービスも存在しています。しかし、だからといってAIが弁護士さんの代わりになるわけではなく、弁護士さんがより短時間に、効率的により多くの業務をこなす、あるいは考える時間を多く作るために使われているのです。

幸い、皆さんはAIがある前提でこれから学ぶ立場ですから、「ある日突然仕事を奪われて失業する」という危険は比較的低いと言えますが、世の中はどう変わるかわかりません。より高度な知識、技術、そして物事の本質を学び、AIを「従わせて」より生産性の高い仕事ができるよう、自分の能力を上げ、鍛えていきましょう。もちろんそのためにアメリカの大学で学ぶのは、ひとつの非常に有効な手段です。

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英語のための留学は無くなる?

今後は、会話でも文章でも機械翻訳の力が上がるにつれて英語の壁がどんどん下がり、少なくともビジネス英語のマスターを目的に語学留学をする必然性は薄れていくでしょう。もちろん、人としてのコミュニケーション力をつけるための語学留学は廃れることはないと思います。

ただ、全般に道具としての言語習得の必然性が下がるのは確かで、そこで留学をする意義は、やはり進んだ技術や世界に通用する知識の習得であったり、文化や世界そのものを見て感じて自分自身の感性、人間性を磨いていくことが目的になっていくのではないかと思います。そしてその感性、あるいは教養が道具を上手く使うための発想力にもつながってくるのです。

より人間らしくなるために

機械が人間に、人間が機械に近付きあいまいになっていく。冒頭の小説のテーゼは皆さんのすぐ隣まで来ています。ここまで磨くべしと説いてきたことは、発想力、問題解決能力、知識、技術、本質をつかむ力、コミュニケーション力、感性、そして人間性です。そしてこれらは、実はAIが無かった時代と何ら変わらない、人として磨くべき要素そのものであったりします。時代の変化としては、よりその質を上げることが問われているということでしょう。

アメリカ留学でこれら全てを得られるとは限りませんが、アメリカ人をはじめとする色々な国の人に会い、ともに学び、楽しいことも嫌なことも経験し、苦労を前に進む力に変えていけるならば、必ずAIでは代わりの効かないオンリーワンのあなたになれることでしょう。こと留学に関しては、大学4年間にしても、短期留学にしても、限られた時間の中で、オンオフ問わず、いかに濃い経験ができるかが勝負です。

AIを道具として、友として、ライバルとしてとらえ、より高いレベルの自分を作っていきましょう。

第2回は、大学の専攻としてAIを学ぶ、というところに触れていきたいと思います。

AIについて考える:第2回『アメリカの大学でAIを学ぶには』

第1回では拙文ながらAIのある世界でどう学んでいくべきか?という議論をしてみました。では、AIそのものに興味を持ち、アメリカの大学でAIを学ぶにはどうしたらよいでし…

※なお、本文章は筆者の個人的な意見ならびに見解です。議論が稚拙な部分はご容赦いただければ幸いです。

文責:堀 宏輔(NCN米国大学機構・入学審査室長)

staff

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